三春人形「千歳(せんざい)」|歴民コラム|三春町歴史民俗資料館
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歴民コラム
三春人形「千歳(せんざい)」
正月、能や歌舞伎などでは、「三番叟」と呼ばれる出し物がよく演じられます。
その中で、最初に筥(はこ)を捧げ持って出てくるが「千歳」です。筥の中には、その後に舞う翁の面が入っています。
この演目は、天下泰平、五穀豊穣を願うもので、出し物というよりは、これらを願う「儀式」に近いとも言われます。
千歳は若さ(不老長寿)を、その後に舞う翁は、経験と知識とを積んだ老いを表すと考えられます。
よく見ていただくと、千歳の人形はその衣装に若松文様が描かれています(これも年若いことを表す)。
実は、人形の背中側には、松喰鶴文という吉祥文(おめでたいときに使われる文様)も描かれています。
これは能や歌舞伎の衣装に則っていると思われ、江戸時代の三春人形工人が、これらの文様をきちんと再現していることがわかります。
三春でもお正月飾りの松を山から迎えてくる習わしがあり(松迎え)、お正月様の依り代(よりしろ)として、山から持ち帰られた松は丁重に扱われました。
雪の中でも緑色の葉を落とさない松は、大地の力を湛え、春の恵みを約束する木であったに違いありません。
すっと背を伸ばし、これから成長する可能性を箱の中に捧げ持っている「千歳」は、まさに山から迎えられた松の若木の化身なのかもしれません。
(2020年1月)
三春人形「千歳(せんざい)」(館蔵)